『山月記』テスト問題〈第六段落・第七段落〉

【六】本文について、設問に答えよ。

もはや、別れを告げねばならぬ。酔わねばならぬときが、(虎に還らねばならぬときが)近づいたから、と、李徴の声が言った。だが、お別れする前にもう一つ頼みがある。それは我が妻子のことだ。彼らはいまだ虢略にいる。もとより、①おれの運命については知るはずがない。君が南から帰ったら、おれはすでに死んだと彼らに告げてもらえないだろうか。決して今日のことだけは明かさないでほしい。厚かましいお願いだが、彼らの孤弱を哀れんで、今後とも道塗に飢凍することのないように計らっていただけるならば、自分にとって、恩幸、これに過ぎたるはない。
言い終わって、叢中から慟哭の声が聞こえた。袁もまた涙を浮かべ、喜んで李徴の意に添いたい旨を答えた。李徴の声はしかしたちまちまた先刻の自勳的な調子に戻って、言った。
本当は、まず、このことのほうを先にお願いすべきだったのだ、おれが人間だったなら。飢え凍えようとする妻子のことよりも、己の乏しい詩業のほうを気にかけているような男だから、こんな獣に身を堕すのだ。
そうして、つけ加えて言うことに、袁侏が嶺南からのA帰途には決してこの道を通らないでほしい、そのときには自分が酔っていて故人を認めずに襲いかかるかもしれないから。また、今別れてから、前方百歩の所にある、あの丘に上ったら、こちらを振り返って見てもらいたい。②自分は今の姿をもう一度お目にかけよう。勇に誇ろうとしてではない。我がB醜悪な姿を示して、もって、再びここを過ぎて自分に会おうとの気持ちを君に起こさせないためであると。
袁侏は草むらに向かって、C懇ろに別れの言葉を述べ、馬に上った。草むらの中からは、また、堪え得ざるがごとき悲泣の声が漏れた。袁侏も幾度か草むらを振り返りながら、涙のうちに出発した。
一行が丘の上に着いたとき、彼らは、言われたとおりに振り返って、先ほどの林間の草地をD眺めた。たちまち、一匹の虎が草の茂みから道の上に躍り出たのを彼らは見た。虎は、すでに白く光を失った月を仰いで、二声三声E咆哮したかと思うと、また、もとの草むらに躍り入って、再びその姿を見なかった。

 

問一 傍線部A〜Eの読みをひらがなで答えよ。

問二 傍線部①について、李徴はこの「運命」に陥った原因を何だと結論づけているか。「〜だから」に接続するように本文から四十字で探して、はじめと終わりの四字を書け。

問三 傍線部②とあるが、この狙いとして最も適切なものは次のうちどれか。
ア 誇示  イ 狷介  ウ 警告  エ 羞恥

問四 本文の作品名と作者を漢字で答えよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【解答例】
問一 Aきと Bしゅうあく Cねんご(ろ) Dなが(めた) Eほうこう
問二 飢え凍え〜ような男(だから)
問三 ウ
問四 山月記、中島敦

 

 

 

 

 

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