『こころ』テスト問題 <下 先生と遺書 四一>

 

◆プリントアウトはこちらから!!

【印刷可】「こころ」テスト問題 プリント一覧

 

【一】本文について、設問に答えよ。

私はちょうど①他流試合でもする人のようにKを注意して見ていたのです。私は、私の目、私の心、私の身体、すべて私という名のつくものを五分の隙間もないように用意して、Kに向かったのです。罪のないKは穴だらけというよりむしろ明け放しと評するのが適当なくらいに無用心でした。私は彼自身の手から、②彼の保管している要塞の地図を受け取って、彼の目の前でゆっくりそれを眺めることができたも同じでした
Kが③理想と現実の間に彷徨してふらふらしているのを発見した私は、ただ一打ちで彼を倒すことができるだろうという点にばかり目をつけました。そうしてすぐ④彼の虚につけ込んだのです。私は彼に向かって急に厳粛な改まった態度を示し出しました。むろん策略からですが、その態度に相応するくらいな緊張した気分もあったのですから、自分に滑稽だの羞恥だのを感ずる余裕はありませんでした。私はまず「⑤精神的に向上心のない者はばかだ。」と言い放ちました。これは二人で房州を旅行している際、Kが私に向かって使った言葉です。私は彼の使ったとおりを、彼と同じような口調で、再び彼に投げ返したのです。しかし決して復讐ではありません。私は⑥復讐以上に残酷な意味を持っていたということを自白します。私はその一言でKの前に横たわる恋の行く手を塞ごうとしたのです。
Kは真宗寺に生まれた男でした。しかし彼の傾向は中学時代から決して生家の宗旨に近いものではなかったのです。教義上の区別をよく知らない私が、こんなことを言う資格に乏しいのは承知していますが、私はただ男女に関係した点についてのみ、そう認めていたのです。Kは昔から精進という言葉が好きでした。私はその言葉の中に、禁欲という意味もこもっているのだろうと解釈していました。しかしあとで実際を聞いてみると、⑦それよりもまだ厳重な意味が含まれているので、私は驚きました。道のためにはすべてを犠牲にすべきものだというのが彼の第一信条なのですから、摂欲や禁欲はむろん、たとい欲を離れた恋そのものでも道の妨げになるのです。Kが自活生活をしている時分に、私はよく彼から彼の主張を聞かされたのでした。そのころからお嬢さんを思っていた私は、いきおいどうしても彼に反対しなければならなかったのです。私が反対すると、彼はいつでも気の毒そうな顔をしました。⑧そこには同情よりも侮蔑のほうがよけいに現れていました
こういう過去を二人の間に通り抜けてきているのですから、精神的に向上心のない者はばかだという言葉は、⑨Kにとって痛いにちがいなかったのです。しかし前にも言ったとおり、私はこの一言で、彼がせっかく積み上げた過去を蹴散らしたつもりではありません。かえってそれを今までどおり積み重ねてゆかせようとしたのです。それが道に達しようが、天に届こうが、私はかまいません。私はただKが急に生活の方向を転換して、私の利害と衝突するのを恐れたのです。要するに私の言葉は単なる利己心の発現でした。
「⑩精神的に向上心のない者は、ばかだ。
私は二度同じ言葉を繰り返しました。そうして、その言葉がKの上にどう影響するかを見つめていました。
「ばかだ。」とやがてKが答えました。「⑪僕はばかだ。」
Kはぴたりとそこへ立ち止まったまま動きません。彼は地面の上を見つめています。⑫私は思わずぎょっとしました。⑬私にはKがその刹那に居直り強盗のごとく感ぜられたのです。しかしそれにしては彼の声がいかにも力に乏しいということに気がつきました。私は彼の目づかいを参考にしたかったのですが、彼は最後まで私の顔を見ないのです。そうして、そろそろとまた歩き出しました。

 

 

 

問一 傍線部①とあるが、どういうことか。説明せよ。

問二 傍線部②とあるが、
(1)「私」のKに対するどのような心情が読み取れるか。簡潔に説明せよ。
(2)「要塞の地図」は何をたとえたものか。「Kの〜」に続くように、三字で答えなさい。

問三 傍線部③とあるが、「理想」と「現実」とは、それぞれどのようなことか説明せよ。

問四 傍線部④とあるが、具体的にどのようなことか。二十字以内で答えなさい。

問五 傍線部⑤とあるが、この言葉には、「私」のどのような意図があったのか。それが最も具体的に表現されている一文を本文中から探して、初めの五字を抜き出しなさい。

問六 傍線部⑥とは、どういうことか。次の空欄にあてはまる語句を指定された字数で❶❸は本文中から抜き出し、❷は自分で考えて答えなさい。
・以前Kから受けた(❶ 二字 )するような言葉に対する(❷ 三字 )という意味ではなく、Kの行動を縛り、(❸ 九字 )としたという意味。

問七 傍線部⑦とあるが、どのような意味か。空欄にあてはまる語句を本文中から十字で抜き出しなさい。
・道のためにはすべて犠牲にすべきであり、( 十字 )でも道の妨げになるということ。

問八 傍線部⑧とあるが、このときのKの心の状態を説明せよ。

問九 傍線部⑨とあるが、その理由を説明せよ。

問十 傍線部⑩とあるが、「私が」このように言った意図は何か。簡潔に説明せよ。

問十一 傍線部⑪を言ったときのKの心情を説明せよ。

問十二 傍線部⑫とあるが、それはなぜか。説明せよ。

問十三 傍線部⑬とあるが、
(1)「居直り強盗」の意味を答えなさい。
(2)ここでの「私」は、Kがどのように考えたと受け取ったか。「…と考えた。」に続くように二十五字以内で答えなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【解答例】
問一 慈悲や同情の心を度外視した態度のこと。
問二(1)Kの弱点をつかんだという優越感。
(2)心の中
問三 すべてを犠牲にして精進の道を守ることと、恋愛の淵に陥っていること。
問四 Kが恋の苦悩をありのままに見せたこと。
問五 私はその一
問六 ❶侮蔑 ❷仕返し ❸恋の行く手を塞ごう
問七 欲を離れた恋そのもの
問八 自分の生き方に強い確信を持った、少しの迷いもないきっぱりした態度。
問九 かつて友に投げかけたひどい言葉が、自分の身にそのまま返ってきたから。
問十 Kに今までどおりの生き方が大切だと思わせ、恋を諦めさせようとした。
問十一 自分が求めた生き方から外れて、邪魔なものと思っていた恋に振り回されている今の姿に絶望している。
問十二 「僕はばかだ」というKの言葉が恋に進もうという意味に感じられたから。
問十三(1)こそ泥が犯行現場を見つけられて、開き直って強盗になること。
(2)精神的な向上心を捨てて、恋に進もうと開き直った[と考えた。]

◆プリントはこちらから印刷できます!!

【印刷可】「こころ」テスト問題 プリント一覧

 

 

 

 

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

*

CAPTCHA