『こころ』テスト問題 <下 先生と遺書 三六>

 

 

 

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【一】本文について、設問に答えよ。

彼の口元をちょっと眺めたとき、私はまた何か出てくるなとすぐ感づいたのですが、それがはたしてなんの準備なのか、私の予覚はまるでなかったのです。①だから驚いたのです。彼の重々しい口から、彼のお嬢さんに対する切ない恋を打ち明けられたときの私を想像してみてください。②私は彼の魔法棒のために一度に化石されたようなものです。口をもぐもぐさせるはたらきさえ、私にはなくなってしまったのです。
そのときの私は恐ろしさの塊と言いましょうか、または苦しさの塊と言いましょうか、なにしろ一つの塊でした。石か鉄のように頭から足の先までが急に固くなったのです。呼吸をする弾力性さえ失われたくらいに固くなったのです。幸いなことにその状態は長く続きませんでした。私は一瞬間の後に、また人間らしい気分を取り戻しました。そうして、すぐしまったと思いました。③先を越されたなと思いました。
しかしその先をどうしようという分別はまるで起こりません。おそらく起こるだけの余裕がなかったのでしょう。私は脇の下から出る気味の悪い汗がシャツにしみ通るのをじっと我慢して動かずにいました。Kはその間いつものとおり重い口を切っては、ぽつりぽつりと自分の心を打ち明けてゆきます。私は苦しくってたまりませんでした。おそらくその苦しさは、大きな広告のように、私の顔の上にはっきりした字で貼りつけられてあったろうと私は思うのです。いくらKでもそこに気のつかないはずはないのですが、彼はまた彼で、④自分のことに一切を集中しているから、私の表情などに注意する暇がなかったのでしょう。彼の自白は⑤最初から最後まで同じ調子で貫いていました。重くてのろいかわりに、とても容易なことでは動かせないという感じを私に与えたのです。私の心は半分その自白を聞いていながら、半分どうしようどうしようという念にたえずかき乱されていましたから、細かい点になるとほとんど耳へ入らないと同様でしたが、それでも彼の口に出す言葉の調子だけは強く胸に響きました。そのために私は前言った苦痛ばかりでなく、時には一種の恐ろしさを感ずるようになったのです。つまり⑥相手は自分より強いのだという恐怖の念がきざし始めたのです。
Kの話がひととおり済んだとき、⑦私はなんとも言うことができませんでした。こっちも彼の前に同じ意味の自白をしたものだろうか、それとも打ち明けずにいるほうが得策だろうか、私はそんな利害を考えて黙っていたのではありません。ただ何事も言えなかったのです。また言う気にもならなかったのです。

 

問一 傍線部①とあるが、その驚きを最もよく表している一文を探して、初めと終わりの三字を抜き出せ。

問二 傍線部②とあるが、(1)「彼の魔法棒」、(2)「化石された」とは、何の比喩か。それぞれ十五字以内で答えなさい。

問三 傍線部③とあるが、どういうことか。簡潔に説明せよ。

問四 傍線部④とあるが、「K」は「私」に対してどういう気持ちで相対していると思われるか。説明せよ。

問五 傍線部⑤とあるが、その調子を端的に表す擬態語を本文中から抜き出しなさい。

問六 傍線部⑥とは、「私」が「K」をどのような人物だと思っているからか。次の中から選び、記号で答えよ。
ア 温厚な性格で義理堅い人物。
イ 強固な意志を持ち、信念を曲げない人物。
ウ 図太い神経を持ち、打算的な人物。
エ 性急な性分で、直情径行的な人物。

問七 傍線部⑦とあるが、それはなぜか。その理由を二五字以内で答えなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【解答例】
問一 私は彼〜です。
問二(1)Kのお嬢さんへの恋心の告白。
(2)呆然自失の状態になったこと。
問三 Kの気持ちを知り、お嬢さんへの思いを表明する機会を失った。恋を成就するためにやりにくくなったということ。
問四 私を信頼しきって、自分の心のうちのすべてを私に理解してもらおうという懸命な気持ち。
問五 ぽつりぽつり
問六 イ
問七 Kの話に圧倒され、一種の恐ろしさを感じているから。

 

 

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