「母と子の別れ」テスト問題




【一】本文について、設問に答えよ。

雪、霰がちに、心細さまさりて、「あやしくさまざまにもの思ふべかりける身かな。」とうち嘆きて、①常よりもこの君をなでつくろひつつ見ゐたり。雪かきくらし降り積もる朝、来し方行く末のこと残らず思ひ続けて、例は殊に端近なる出でゐなどもせぬを、汀の氷など見やりて、白き衣どものなよよかなるあまた着て、ながめゐたる様体、頭つき、後ろ手など、限りなき人と聞こゆとも、かうこそはおはすらめと人々も見る。落つる涙をかき払ひて、「かやうならむ日、ましていかにおぼつかなからむ。」とらうたげにうち嘆きて、
A 雪深み深山の道は晴れずともなほふみ通へあと絶えずして
とのたまへば、乳母うち泣きて、
雪間なき吉野の山をたづねても心の通ふあと絶えめやは
と言ひ慰む。
この雪少し解けて渡り給へり。例は待ち聞こゆるに、②さならむとおぼゆることにより、胸うちつぶれて人やりならずおぼゆ。わが心にこそあらめ、否び聞こえむを強ひてやは、あぢきな、とおぼゆれど、軽々しきやうなりと、せめて思ひ返す。いとうつくしげにて前にゐ給へるを見給ふに、おろかには思ひ難かりける人の宿世かなと思ほす。この春より生ほす御髪、尼のほどにてゆらゆらとめでたく、つらつき、まみのかをれるほどなど、いへばさらなり。③よそのものに思ひやらむほどの心の闇推し量り給ふに、いと心苦しければ、うち返しのたまひ明かす。「何か、かく口惜しき身のほどならずだにもてなし給はば。」と聞こゆるものから、念じあへずうち泣くけはひあはれなり。
寄せたる所に、④母君自ら抱きて出で給へり。片言の、声はいとうつくしうて、袖をとらへて、「乗り給へ。」と引くもいみじうおぼえて、
末遠き⑤二葉の松にひき別れいつか木高き影を見るべき
えも言ひやらずいみじう泣けば、さりや、あな苦し、と思して、
「生ひそめし根も深ければ⑥武隈の松に小松の千代を並べむ
のどかにを。」と慰め給ふ。さることとは思ひ静むれど、えなむ堪へざりける。乳母、少将とてあてやかなる人ばかり、御佩刀、天児やうの物取りて乗る。副車によろしき若人、童など乗せて、御送りに参らす。道すがら、⑦とまりつる人の心苦しさを、いかに罪や得らむと思す。

 

 

問一 次の語句の読みを、ひらがな(現代仮名遣い)で書け。
①朝 ②乳母 ③宿世 ④御髪

問二 次の一文はどこに入るか。入る直後の五字を抜き出せ。
◆姫君は、何心もなく、御車に乗らむことを急ぎ給ふ。

問三 明石の君が普段とは違った様子を描いている部分を探して、はじめと終わりの三字のみ書け。

問四 傍線部①とあるが、誰のどのような状態を表しているか。

問五 Aの歌「雪深み〜」から、掛詞を二つ抜き出して、各々なにとなにが掛けられているのかを漢字で表記せよ。

問六 傍線部②とあるが、光の君の訪問による明石の君の心中が記述されている部分を、本文から❶二十七字、❷八字で二つ抜き出せ。ただし、❶ははじめと終わりの三字ずつを書け。(句読点を字数に含む)

問七 傍線部③とは、どういうことか。

問八 傍線部④には、明石の君のどのような気持ちが表れているか。最も適切なものを選び、記号で答えよ。
 姫君の成長した姿を再確認し、実母として誇らしい気持ち。
 姫君との一生の別れになると思い、その別れを惜しむ気持ち。
 姫君が自分との別れを惜しむ姿に心打たれ、悲しい気持ち。
エ 姫君を短いながら養育できた時間に感謝し、やり切った気持ち。

問九 傍線部⑤は、誰のことをたとえているか。次の選択肢から選び、記号で答えよ。
ア 明石の君  イ 姫君  ウ 光の君(光源氏)

問十 傍線部⑥について、
(1)「武隈の松」は誰と誰をたとえているか。問九の選択肢から選べ。
(2)「小松」は誰をたとえているか。問九の選択肢から選べ。

問十一 傍線部⑦とは、誰を指すか。問九の選択肢から選べ。

問十二 出典と作者を答えよ。

 

 




 

 

 

 

 

 

 

【解答例】

問一①あした ②めのと ③すくせ ④みぐし
問二 寄せたる所
問三 例は殊〜ゐたる
問四 明石の君の、永遠の別れになってしまうかもしれないと思い、姫君を大切になでている状態。
問五 ふみ「文」「踏み」 あと「足跡」「筆跡」
問六 ❶わが心〜ぢきな ❷軽々しきやうなり
問七 我が子である姫君を、他人の子として思うこと。
問八 イ
【解説】ア・エ 記述なし、ウ姫君は母(=明石の君)と別れることを知らない。イが適切。
問九 イ
問十(1)アイ(2)ウ
問十一 ア
問十二 源氏物語 紫式部

 

 

 

 

 

 

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