『夢十夜』【第一夜】1/3 テスト問題





【一】本文について、設問に答えよ。

こんな夢を見た。
腕組みをして枕もとに座っていると、あお向きに寝た女が、静かな声でもう死にますと言う。女は長い髪を枕に敷いて、輪郭の柔らかな①うりざね顔をその中に横たえている。真っ白な皀の底に温かい血の色がほどよく差して、唇の色はむろん赤い。とうてい死にそうには見えない。しかし女は静かな声で、もう死にますとはっきり言った。自分もたしかにこれは死ぬなと思った。そこで、そうかね、もう死ぬのかね、と上からのぞき込むようにしてきいてみた。死にますとも、と言いながら、女はぱっちりと目を開けた。大きな潤いのある目で、長いまつ毛に包まれた中は、ただ一面に真っ黒であった。その真っ黒な瞳の奥に、自分の姿が鮮やかに浮かんでいる。
自分は透き通るほど深く見えるこの黒目の色沢を眺めて、これでも死ぬのかと思った。それで、ねんごろに枕のそばへ口をつけて、②死ぬんじゃなかろうね、大丈夫だろうね、とまたきき返した。すると女は黒い目を眠そうに見張ったまま、やっぱり静かな声で、でも、死ぬんですもの、しかたがないわと言った。
じゃ、私の顔が見えるかいと一心にきくと、見えるかいって、そら、そこに、写ってるじゃありませんかと、にこりと笑ってみせた。自分は黙って、顔を枕から離した。腕組みをしながら、どうしても死ぬのかなと思った。
しばらくして、女がまたこう言った。
「死んだら、埋めてください。大きな真珠貝で穴を掘って。そうして天から落ちてくる星の破片を墓標に置いてください。そうして墓のそばに待っていてください。また会いに来ますから。」
自分は、いつ会いに来るかねときいた。
「日が出るでしょう。それから日が沈むでしょう。それからまた出るでしょう、そうしてまた沈むでしょう。――赤い日が東から西へ、東から西へと落ちてゆくうちに、――あなた、待っていられますか。」
自分は黙ってうなずいた。女は静かな調子を一段張り上げて、
「百年待っていてください。」と思い切った声で言った。
「百年、私の墓のそばに座って待っていてください。きっと会いに来ますから。」
自分はただ待っていると答えた。すると、黒い瞳の中に鮮やかに見えた自分の姿が、ぼうっと崩れてきた。③静かな水が動いて写る影を乱したように、流れ出したと思ったら、女の目がぱちりと閉じた。長いまつ毛の間から涙が皀へ垂れた。――もう死んでいた。

 

 

問一 傍線部①の内容を説明しなさい。

問二 傍線部②とあるが、なぜ「またきき返した」のか。その理由を説明した次の文の空欄にあてはまる表現を、指定された字数で本文から抜き出せ。

  • 女が【 本文から十四字 】から。

問三 傍線部③とは、なにの比喩表現か。

問四 女の遺言の要点が述べられている一文を探して、はじめから数えて七字目、十二字目を抜き出せ。

 

 




 

 

 

 

 

【解答例】

問一 肌が白くて細長い顔

問二 とうてい死にそうには見えない

問三 女が流した涙

問四 七字目…墓、十二字目…座

 

 

 




 

 

 

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