『夢十夜』【第六夜】2/3 テスト問題





【二】本文について、設問に答えよ。

運慶は見物人の評判には委細癸着なく鑿と廨を動かしている。一向振り向きもしない。高い所に乗って、仁王の顔のあたりをしきりに彫り抜いてゆく。
運慶は頭に小さい烏帽子のようなものを乗せて、素袍だかなんだかわからない大きな袖を背中でくくっている。その様子がいかにも古くさい。わいわい言ってる見物人とはまるで釣り合いがとれないようである。自分はどうして今時分まで運慶が生きているのかなと思った。どうも不思議なことがあるものだと考えながら、やはり立って見ていた。
しかし運慶のほうでは不思議とも奇態ともとんと感じ得ない様子で一生懸命に彫っている。あお向いてこの態度を眺めていた一人の若い男が、自分のほうを振り向いて、
「さすがは運慶だな。眼中に我々なしだ。天下の英雄はただ仁王と我とあるのみという態度だ。あっぱれだ。」と言って褒め出した。
自分はこの言葉をおもしろいと思った。それでちょっと若い男のほうを見ると、若い男は、すかさず、
「あの鑿と廨の使い方を見たまえ。②大自在の妙境に達している。」と言った。
運慶は今太い眉を一寸の高さに横へ彫り抜いて、鑿の歯を縦に返すやいなや斜に、上から廨を打ち下ろした。堅い木をひと刻みに削って、厚い木壺が廨の声に応じて飛んだと思ったら、小鼻のおっ開いた怒り鼻の側面がたちまち浮き上がってきた。その刀の入れ方がいかにも無遠慮であった。そうして少しも疑念をさしはさんでおらんように見えた。
「よくああ無造作に鑿を使って、思うような眉や鼻ができるものだな。」と自分はあんまり感心したから独り言のように言った。するとさっきの若い男が、
「なに、あれは眉や鼻を鑿で作るんじゃない。あのとおりの眉や鼻が木の中に埋まっているのを、鑿と廨の力で掘り出すまでだ。まるで土の中から石を掘り出すようなものだから決して間違うはずはない。」と言った。

 

 

問一 傍線部①を言い換えている一文を探して、すべて抜き出しなさい。

問二 傍線部②とはどういう境地か。

 

 

 

 




 

 

 

 

 

【解答例】

問一 眼中に我々なしだ。

問二 物事を自由自在に扱うことのできる、常人には達し得ない境地。

 

 

 




 

 

 

 

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