『羅生門』テスト問題〈第四段落〉




【四】本文について、設問に答えよ。

下人は、太刀を鞘に収めて、その太刀の柄を左の手で押さえながら、冷然として、この話を聞いていた。もちろん、右の手では、赤く頰にうみを持った大きなにきびを気にしながら、聞いているのである。しかし、これを聞いているうちに、下人の心には、ある勇気が生まれてきた。それは、①さっき門の下で、この男には欠けていた勇気である。そうして、またさっきこの門の上へ上がって、この老婆を捕らえたときの勇気とは、全然、反対な方向に動こうとする勇気である。下人は、飢え死にをするか盗人になるかに、迷わなかったばかりではない。②そのときの、この男の心持ちから言えば、飢え死になどということは、ほとんど、考えることさえできないほど、意識の外に追い出されていた。
「③きっと、そうか。」
老婆の話が終わると、④下人は嘲るような声で念を押した。そうして、一足前へ出ると、不意に右の手をにきびから離して、老婆の襟髪をつかみながら、かみつくようにこう言った。
「では、俺が引剝ぎをしようと恨むまいな。俺もそうしなければ、飢え死にをする体なのだ。」
下人は、すばやく、老婆の着物を剝ぎ取った。それから、足にしがみつこうとする老婆を、手荒く死骸の上へ蹴倒した。はしごの口までは、わずかに五歩を数えるばかりである。下人は、剝ぎ取った檜皮色の着物を脇に抱えて、またたく間に⑤急なはしごを夜の底へ駆け下りた
しばらく、死んだように倒れていた老婆が、死骸の中から、その裸の体を起こしたのは、それから間もなくのことである。老婆は、つぶやくような、うめくような声をたてながら、まだ燃えている火の光を頼りに、はしごの口まで、這っていった。そうして、そこから、短い白髪を逆さまにして、門の下をのぞき込んだ。外には、ただ、黒洞々たる夜があるばかりである。
下人の行方は、誰も知らない。

 

 

問一 傍線部①とは、どのような「勇気」なのか。説明しなさい。

問二 傍線部②とあるが、具体的にどのようなときか。

問三 傍線部③には、下人のどのような気持ちがこめられているか。

問四 傍線部④とあるが、下人に老婆を「嘲るような」心情が生まれたのはなぜか。

問五 傍線部⑤とあるが、「夜の底」は何を象徴しているか。

問六 作品名と作者を答えなさい。

 

 




 

 

 

 

 

 

 

【解答例】

問一 生きるための手段として悪を肯定する勇気。

問二 下人の心にある勇気が生まれてきたとき。

問三 老婆が使った論理をそのまま自分に当てはめ、老婆に対する盗みもしかたがなくすることだと肯定する気持ち。

問四 老婆の話自体が、老婆の着物をうばう理由となったから。

問五 暗くて絶望的な人生

問六 羅生門、芥川龍之介

 

 

 

 

 

 

 

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