「児のそら寝」わかりやすい解説

「児のそら寝」

児のうそ寝(たぬき寝入り)

 

 




 

今は昔、比叡の山に児ありけり。

むかしむかし、比叡山の延暦寺というお寺に修行する少年がいた。

[文法]

・「あり」…ラ行変格活用、連用形

・「けり」…過去の助動詞、終止形

[重要]

・「今は昔」…「今となっては昔のことだが」という説話の常套句。決まり文句。

・「比叡」…延暦寺

 

僧たち、宵のつれづれに、「いざ、かいもちひせむ。」と言ひけるを、この児、心よせに聞きけり。

僧たちが宵の所在なさに「さあ、ぼたもちを作ろう。」と言ったのを、この児は、ぼたもちが食べられるかもしれないと期待して聞いた。

[文法]

・「かいもちひせむ」…「かいもちひ」…名詞、ぼたもち の意

「せ」…サ行変格活用、未然形

「む」…意志の助動詞、終止形

・「言ひける」…「ける」…過去の助動詞、連体形

・「聞きけり」…「けり」…過去の助動詞、終止形

[重要]

・「宵」…日が暮れて間もないころ。夜の初めの方。読みの問題で頻出です。答えは「よい」

・「いざ、かいもちひせむ。」…誰が誰に対してかけた言葉か。という少々意地悪な問題が出るかもしれません。答えは、『「僧たち」の中の一人』が「僧たち」に対してです。

・児はどのようなことを「心寄せに」していたのか。この問題も頻出です。答えは、ぼた餅が食べれること。

 

さりとて、し出ださむを待ちて寝ざらむも、わろかりなむと思ひて、片方に寄りて、寝たるよしにて、

「そうかといって作り上げるのを待って寝ないのも、きっと良くないにちがいない。」と思って、片隅に寄って、寝ているふりで、

[文法]

・「わろかりなむ」…※高校1年生の人は参考程度で良いです。

「わろかり」…ク活用形容詞、連用形

「な」…強意の助動詞、未然形

「む」…推量の助動詞、終止形

[重要]

・「さ」…指示語、前文の「心寄せに聞きけり。」を指し示しています。

・「わろかり」…良くない の意。

【良】よし-よろし-わろし-あし【悪】

「よし」…絶対に良い

「よろし」…普通だ

「わろし」…よくない

「あし」…絶対に良くない

・児が「寝たるよし」でいようと考えた理由に該当している部分を抜き出せ。など聞かれる場合があります。答えは、『さりとて、し出ださむを待ちて寝ざらむも、わろかりなむ』

「」は児の心内語、教科書本文には「」は付いていない。

 

出で来るを待ちけるに、すでにし出だしたるさまにて、ひしめき合ひたり。

でき上がるのを待ったところ、はやくも作り上げた様子で、騒ぎあっている。

[文法]

・「待ちける」…「ける」…過去の助動詞、連体形

・「出だしたる」…「たる」…完了の助動詞、連体形

・「合ひたり」…「たり」…存続の助動詞、終止形

[重要]

・なにが「出で来る」のか、聞かれる場合があります。答えは、『かいもちひ』です。

 

この児、さだめておどろかさむずらむと、待ちゐたるに、僧の、「もの申しさぶらはむ。おどろかせたまへ。」

この児は「きっと起こそうとするだろう」と待ち続けていると、僧が「もしもし。目をお覚ましください。」

[文法] ※この部分では多々助動詞がありますが、古文に触れ始めた高校1年生には難しすぎる内容なので割愛します。

・「おどろかさむずらむ」…「おどろかさ」…サ行四段活用、未然形

・「待ちゐたる」…「待ちゐ」…ワ行上一段活用、連用形

「たる」…存続の助動詞、連体形

[重要]

・「おどろかせたまへ」…現代語訳がよく聞かれます。

「せたまへ」の部分では「せ」「たまへ」と二つ同時に敬語が使われる二重尊敬という表現になっている。

・誰が、何を「待ちゐたる」のか、聞かれる場合があります。答えは、『児が、僧たちが自分を起こそうとすること。』

「」は児の心内語、教科書本文には「」は付いていない。

 

と言ふを、うれしとは思へども、ただ一度にいらへむも、待ちけるかともぞ思ふとて、

と言うのを「嬉しかった」けれども、たった一回で返事するのも、「待っていたのか」と僧たちが思ったら困ると児は思って、

[文法]

・「思へ」…ハ行四段活用、已然形

・「ぞ→思ふ」…係り結び。「ぞ」が強意の係助詞であるため、文末を連体形で結ぶ。なので「思ふ」は連体形

[重要]

・「うれし」と対比的に使われている語を本文から抜き出せ、この問題は頻出です。答えは、『わびし』

「」は児の心内語、教科書本文には「」は付いていない。

「」は僧たちの心内語、教科書本文には「」は付いていない。

・「ただ一度にいらへむも、待ちけるかともぞ思ふ」と同一の内容の部分を抜き出せ。と聞かれるかもしれません。答えは、『さりとて、し出ださむを待ちて寝ざらむも、わろかりなむ』

 

いま一声呼ばれていらへむと、念じて寝たるほどに、

「もう一度呼ばれてから起きよう」と思って、我慢して寝ているうちに

[文法]

・「いらへ」…「む」意志の助動詞、終止形

・「たる」…存続の助動詞、連体形

[重要]

・「念じて」は重要古語なので、意味を聞かれる場合があります。

また、なにを「念じる」のか、と問われるかもしれません。答えは、『早く起きて、ぼた餅を食べたいという気持ち』

「」は児の心内語、教科書本文には「」は付いていない。

 

「や、な起こしたてまつりそ。をさなき人は、寝入りたまひにけり。」と言ふ声のしければ、

「これ、起こし申し上げるな。幼い人は寝入ってしまった。」という声がしたので、

[文法]

★「な…そ」禁止を表す。〈…するな〉〈…してくれるな〉の意。

・「にけり」…「に」完了の助動詞、連用形・「けり」過去の助動詞、終止形

・「しければ」…「けれ」…過去の助動詞、已然形

[重要]

★「や、な起こしたてまつりそ。」の現代語訳はほぼ聞かれます。

・「をさなき人」…「児」の言い換え。「児」と同意で使われている語を抜き出せ。などの形で問われるかもしれません。

 

あな、わびしと思ひて、いま一度起こせかしと、思ひ寝に聞けば、

ああ、困ったことだと思って、もう一度起こしてくれと思いながら寝て聞き耳をたてると、

[文法]

・「起こせ」…サ行四段活用、命令形

・「かし」…念押しの終助詞

・「思ひ寝」…ナ行下二段活用、連用形

・「聞け」…カ行四段活用、已然形

[重要]

・児はなぜ「わびし」と思ったのか、問われるかもしれません。答えは、『もう一度起こしてくれたら起きようと思っていたのに、僧たちは声をかけるのをやめてしまい、このままではぼた餅を食べられないから。』

「」は児の心内語、教科書本文には「」は付いていない。

 

ひしひしと、ただ食ひに食ふ音のしければ、ずちなくて、無期ののちに、「えい。」といらへたりければ、

むしゃむしゃと、ただ食べる音がしたので、仕方がなくて、長い時間の後に「はい。」と返事をしたので、

[文法]

・「食ひ」…ハ行四段活用、連用形

・「食ふ」…ハ行四段活用、連体形

・「しければ」…「し」…サ行変格活用、連用形

「けれ」…過去の助動詞、已然形

・「いらへたりけれ」…「たり」…完了の助動詞、連用形

「けり」…過去の助動詞、已然形

[重要]

・「無期」の読みは聞かれます。答えは「むご」

・なにを「食ふ」のか。出題されるかもしれません。もちろん「かいもちひ」です。

・「えい。」とは、どの言葉に対する返事か、聞かれる場合があります。答えは『もの申しさぶらはむ。おどろかせたまへ。』

ちなみに、「えい。」はこの古文の話で、児が唯一出した声です。

 

僧たち笑ふこと限りなし。

僧たちが笑うことはこの上ない。

[重要]

・なぜ僧たちは笑ったのか。これは頻出問題です。答えは、『児が間の抜けた時分に返事をしたから。』・『しばらくして急に「えい」と言ったから。』などが挙げられます。

 

 

 

 

  • まとめ

この話の主題…児の細かい心遣いがかえって失敗のもとになってしまったという滑稽談。

 

  • 出典解説

出典…宇治拾遺物語

編者…未詳

成立…鎌倉時代前期

ジャンル…説話

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

*

CAPTCHA