『文学のふるさと』テスト問題〈第四段落〉




【四】本文について、設問に答えよ。

この三つの物語が私たちに伝えてくれる宝石の冷たさのようなものは、なにか、①絶対の孤独  生存これ自体が孕んでいる絶対の孤独、そのようなものではないでしょうか。
この三つの物語には、どうにも、救いようがなく、慰めようがありません。鬼瓦を見て泣いている大名に、あなたの奥さんばかりじゃないのだからと言って慰めても、石を空中に浮かそうとしているように空しい努力にすぎないでしょうし、また、皆さんの奥さんが美人にあるにしても、そのためにこの狂言が理解できないという性質のものでもありません。
それならば、生存の孤独とか、我々のふるさとというものは、このようにむごたらしく、救いのないものでありましょうか。私は、いかにも、そのように、むごたらしく、救いのないものだと思います。この暗黙の孤独には、どうしても救いがない。我々の現身は、道に迷えば、救いの家を予期して歩くことができる。けれども、この孤独は、いつも曠野を迷うだけで、救いの家を予期すらもできない。そうして、最後に、むごたらしいこと、救いがないということ、それだけが、唯一の救いなのであります。②モラルがないということ自体がモラルであると同じように、③救いがないということ自体が救いであります
私は④文学のふるさと、あるいは人間のふるさとを、⑤ここに見ます。文学はここから始まる  私は、そうも思います。
アモラルな、この突き放した物語だけが文学というのではありません。否、⑥私はむしろ、このような物語を、それほど高く評価しません。なぜなら、ふるさとは我々のゆりかごではあるけれども、大人の仕事は、決してふるさとへ帰ることではないから。……
だが、このふるさとの意識・自覚のないところに文学があろうとは思われない。文学のモラルも、その社会性も、このふるさとの上に生育したものでなければ、私は決して信用しない。そして、文学の批判も。私はそのように信じています。

 

 

 

問一 傍線部①とあるが、
(1)どういうものか。赤頭巾の例を用いて説明しなさい。
(2)同様の表現を六字で抜き出しなさい。

問二 傍線部②とあるが、このような「一見矛盾しているようだが、実際は一つの真理をついた表現」を何というか。一単語で答えなさい。

問三 傍線部③とあるが、それはなぜか。

問四 傍線部④とは、何を自覚していることか。次の空欄に当てはまるように本文から三十一字(句読点を字数に含む)で抜き出しなさい。
◆[     ]であることを自覚しているところ。

問五 傍線部⑤とあるが、「ここ」とは、どのようなところか。本文から十七字で抜き出しなさい。

問六 傍線部⑥とあるが、それはなぜか。

問七 作者は誰か。漢字で答えなさい。

 




 

 

 

 

 

 

 

 

【解答例】
問一(1)赤頭巾がどんなに可憐で心優しくても、狼に食べられずに済んだり、他の誰かが代わりになったりすることはないということ。
(2)宝石の冷たさ
問二 逆説(パラドックス)
問三 むごたらしく救いがないという現実だけが、常に人間に与えられた確かなものであるから。
問四 むごたらしいこと、救いがないということ、それだけが、唯一の救い
問五 生存それ自体が孕んでいる絶対の孤独
問六 筆者は、人間の生存それ自体は孕む絶対の孤独をありのままに書くのではなく、そのことを見据え、その上にモラルや社会性を成立させていくような文学作品を生み出していくことに高い価値があると考えているから。
問七 坂口安吾




 

 

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