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『こころ』テスト問題 <下 先生と遺書 四四>

 

 

 

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【一】本文について、設問に答えよ。

Kの①果断に富んだ性格は私によく知れていました。彼のこの事件についてのみ優柔なわけも私にはちゃんとのみ込めていたのです。つまり私は②一般を心得たうえで、例外の場合をしっかり捕まえたつもりで得意だったのです。ところが③「覚悟」という彼の言葉を、頭の中で何べんも咀嚼しているうちに、私の得意はだんだん色を失って、しまいにはぐらぐら動き始めるようになりました。私は④この場合もあるいは彼にとって例外でないのかもしれないと思い出したのです。すべての疑惑、煩悶、懊悩を一度に解決する最後の手段を、彼は胸の中に畳み込んでいるのではなかろうかと疑ぐり始めたのです。⑤そうした新しい光で覚悟の二字を眺め返してみた私は、はっと驚きました。そのときの私がもしこの驚きをもって、もう一ぺん彼の口にした⑥覚悟の内容を公平に見回したらば、まだよかったかもしれません。私はただKがお嬢さんに対して進んでゆくという意味にその言葉を解釈しました。果断に富んだ彼の性格が、恋の方面に発揮されるのがすなわち彼の覚悟だろうといちずに思い込んでしまったのです。
私は私にも⑦最後の決断が必要だという声を心の耳で聞きました。私はすぐその声に応じて勇気を振り起こしました。私はKより先に、しかもKの知らない間に、事を運ばなくてはならないと覚悟を決めました。⑧私は黙って機会をねらっていました。しかし二日たっても三日たっても、私はそれを捕まえることができません。私はKのいないとき、またお嬢さんの留守な折を待って、奥さんに談判を開こうと考えたのです。しかし片方がいなければ、片方がじゃまをするといったふうの日ばかり続いて、どうしても「今だ。」と思う⑨好都合が出てきてくれないのです。私はいらいらしました。
一週間の後私はとうとう堪え切れなくなって仮病をつかいました。奥さんからもお嬢さんからも、K自身からも、起きろという催促を受けた私は、生返事をしただけで、十時ごろまで布団をかぶって寝ていました。私はKもお嬢さんもいなくなって、家の中がひっそり静まったころを見計らって寝床を出ました。私の顔を見た奥さんは、すぐどこが悪いかと尋ねました。食べ物は枕元へ運んでやるから、もっと寝ていたらよかろうと忠告してもくれました。身体に異状のない私は、とても寝る気にはなれません。顔を洗っていつものとおり茶の間で飯を食いました。そのとき奥さんは長火鉢の向こう側から給仕をしてくれたのです。私は朝飯とも昼飯とも片づかない茶椀を手に持ったまま、どんなふうに問題を切り出したものだろうかと、そればかりに⑩屈託していたから、外観からは実際気分のよくない病人らしく見えただろうと思います。
私は飯をしまってたばこをふかし出しました。私が立たないので奥さんも火鉢のそばを離れるわけにゆきません。下女を呼んで膳を下げさせたうえ、鉄瓶に水をさしたり、火鉢の縁を拭いたりして、私に調子を合わせています。私は奥さんに特別な用事でもあるのかと問いました。奥さんはいいえと答えましたが、今度は向こうでなぜですときき返してきました。私は実は少し話したいことがあるのだと言いました。奥さんはなんですかと言って、私の顔を見ました。奥さんの調子はまるで私の気分に入り込めないような軽いものでしたから、私は次に出すべき文句も少し渋りました。
私はしかたなしに言葉のうえで、いいかげんにうろつき回った末、⑪Kがちかごろ何か言いはしなかったかと奥さんにきいてみました。奥さんは思いも寄らないというふうをして、「何を?」とまた反問してきました。そうして私の答える前に、「あなたには何かおっしゃったんですか。」とかえって向こうできくのです。

 

 

 

問一 傍線部①とは、どういう「性格」なのか。簡潔に答えよ。

問二 傍線部②とあるが、(1)「一般」(2)「例外」の内容は、Kのどのような態度や様子のことか。それぞれ簡潔に答えよ。

問三 傍線部③とあるが、このときまで、「私」はKの「覚悟」をどういう意味で受け止めていたのか。

問四 傍線部④とは、どういうことを指しているか。本文から二十二字(句読点を字数に含む)で抜き出せ。

問五 傍線部⑤とあるが、この時「私」は「覚悟」をどのような意味で解釈したのか。その解釈が記されている一文を探して、初めの五字のみを書け。

問六 傍線部⑥とあるが、「覚悟の内容を公平に見回し」たとしたら、そのような「覚悟」だと解釈できたはずだと「私」は言いたいのか。簡潔に答えよ。

問七 傍線部⑦とは、どういう「決断」なのか。簡潔に答えよ。

問八 傍線部⑧とあるが、「私」はどうしようとしているのか。簡潔に説明せよ。

問九 傍線部⑨という表現から、「私」のどのような心情が読み取れるか。簡潔に説明せよ。

問十 傍線部⑩の意味を答えよ。

問十一 傍線部⑪とあるが、それを説明した次の文にあてはまる人物として、最も適当なものを、それぞれ選べ。

ア 奥さん  イ お嬢さん  ウ K  エ 「私」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【解答例】

問一 自分でどんどん実行していくような、勇気と度胸のある性格。

問二(1)即座に判断し処理する態度

(2)いつまでも迷い判断できないさま。

問三 お嬢さんへの恋を諦めるという意味。

問四 果断に富んだ彼の性格が、恋の方面に発揮される

問五 私はただK

問六 自殺する覚悟。

問七 Kより先にお嬢さんに求婚するという決断。

問八 Kを出し抜いて「私」がお嬢さんとの結婚を奥さんに申し込むこと。

問九 自分の決断を実行できないことを焦る気持ち。

問十 どうするかを決めかねて、思い悩んでいたから

問十一 ①エ②ウ③イ④ア

 

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