『山月記』テスト問題〈第四段落〉

【四】本文について、設問に答えよ。

ほかでもない。自分は元来詩人として名を成すつもりでいた。しかも、業いまだ成らざるに、この運命に立ち至った。かつて作るところの詩数百編、もとより、まだ世に行われておらぬ。遺稿の所在ももはやわからなくなっていよう。《 X 》、そのうち、今もなお記誦せるものが数十ある。これを我がために伝録していただきたいのだ。なにも、これによって一人前の詩人面をしたいのではない。作のA巧拙は知らず、《 Y 》、産を破り心を狂わせてまで自分が生涯それにB執着したところのものを、一部なりとも後代に伝えないでは、死んでも死にきれないのだ。
袁侏は部下に命じ、筆を執って叢中の声に従って書き取らせた。李徴の声は草むらの中から朗々と響いた。長短およそ三十編、①格調高雅、意趣卓逸、一読して作者の才の②非凡を思わせるものばかりである。《 Z 》、袁侏は感嘆しながらも漠然と次のように感じていた。なるほど、作者の素質が第一流に属するものであることは疑いない。しかし、このままでは、第一流の作品となるのには、どこか(非常に微妙な点において)欠けるところがあるのではないか、と。
旧詩を吐き終わった李徴の声は、突然調子を変え、自らを勳るがごとくに言った。
恥ずかしいことだが、今でも、こんなあさましい身となり果てた今でも、おれは、おれの詩集が長安風流人士の机の上に置かれているさまを、夢に見ることがあるのだ。岩窟の中に横たわって見る夢にだよ。嗤ってくれ。詩人になりそこなって虎になった哀れな男を。(袁侏は昔の青年李徴の自勳癖を思い出しながら、哀しく聞いていた。)そうだ。お笑い草ついでに、今の思いをCソクセキの詩に述べてみようか。この虎の中に、まだ、かつての李徴が生きているしるしに。
袁侏はまた下吏に命じてこれを書き取らせた。その詩に言う。
偶 因 狂 疾 成 殊 類
災 患 相 仍 不 可 逃
今 日 爪 愼 誰 敢 敵
当 時 声 跡 共 相 高
我 為 異 物 呰 茅 下
君 已 乗 炸 気 勢 豪
此 夕 渓 山 対 明 月
不 成 長 嘯 但 成 
時に、残月、光冷ややかに、白露は地にしげく、樹間を渡る冷風はすでに暁の近きを告げていた。人々はもはや、事の奇異を忘れ、粛然として、この詩人の薄幸を嘆じた。李徴の声は再び続ける。

 

問一 傍線部A〜Cのカタカナは漢字に直し、漢字は読みをひらがなで答えよ。

問二 《 X  》〜《 Z 》に入る語の組み合わせとして、最も適切なものは次のうちどれか。
ア X ところで Y だから  Z ちょうど
イ X ところで Y とにかく Z しかし
ウ X しかし  Y そうして Z おそらく
エ X しかし  Y もちろん Z そして

問三 傍線部①「格調高雅、意趣卓逸」の意味として、最も適切なものは次のうちどれか。
ア 当時の文体としては古く、えりぬきの人物しか読めないということ。
イ 国内のどの作品よりも素晴らしく、思想は常軌を逸しているということ。
ウ 文章が全体として優れており、表現方法や詩が抜き出ているということ。
エ 上流階級の人物にしか読めず、下流階級には読む機会すらないということ。

問四 傍線部②の対義語を漢字二字で答えよ。

問五 傍線部③「偶因狂疾成殊類〜不成長嘯但成嘷」の詩について、
(1)この詩の形式を答えよ。
(2)対句になっているものを、次から二つ選べ。
ア 首聯  イ 顎聯  ウ 頸聯  エ 尾聯
(3)李徴の心情を最も表現している一句を抜き出せ。

問六 本文の作品名と作者を漢字で答えよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【解答例】
問一 Aこうせつ Bしゅうちゃく C即席
問二 イ
問三 ウ
問四 平凡
問五(1)七言律詩 (2)イウ (3)不成長嘯但成嘷
問六 山月記、中島敦

 

 

 

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

*

CAPTCHA