『山月記』テスト問題〈第二段落〉

【二】本文について、設問に答えよ。

翌年、監察御史、陳郡の袁侏という者、A勅命を奉じて嶺南に使いし、道に商於の地に宿った。次の朝いまだ暗いうちに出発しようとしたところ、駅吏が言うことに、これから先の道に人食い虎が出るゆえ、旅人は白昼でなければ、通れない。今はまだ朝が早いから、いま少し待たれたがよろしいでしょうと。袁侏は、しかし、供回りの多勢なのを恃み、駅吏の言葉を退けて、出発した。残月の光を頼りに林中の草地を通っていったとき、はたして一匹の猛虎が草むらの中から躍り出た。虎は、あわや袁侏に躍りかかるかと見えたが、たちまち身をB翻して、もとの草むらに隠れた。草むらの中から人間の声で①「危ないところだった。」と繰り返しつぶやくのが聞こえた。その声に袁侏は聞き覚えがあった。驚懼のうちにも、彼はとっさに思い当たって、叫んだ。「その声は、我が友、李徴子ではないか?」袁侏は李徴と同年に進士の第に登り、友人の少なかった李徴にとっては、最も親しい友であった。温和な袁侏の性格が、峻峭な李徴の性情と衝突しなかったためであろう。
草むらの中からは、しばらく返事がなかった。しのび泣きかと思われるかすかな声が時々漏れるばかりである。ややあって、低い声が答えた。「いかにも自分は隴西の李徴である。」と。
袁侏は恐怖を忘れ、馬から下りて草むらに近づき、懐かしげに②久闊を叙した。そして、なぜ草むらから出てこないのかと問うた。李徴の声が答えて言う。自分はいまや異類の身となっている。どうして、おめおめと③故人の前にあさましい姿をさらせようか。かつまた、自分が姿を現せば、必ず君に畏怖嫌厭の情を起こさせるに決まっているからだ。しかし、今、図らずも故人に会うことを得て、愧赧の念をも忘れるほどに懐かしい。どうか、ほんのしばらくでいいから、我が④醜悪な今の外形をいとわず、かつて君の友李徴であったこの自分と話を交わしてくれないだろうか。
後で考えればCフシギだったが、そのとき、袁侏は、この超自然の怪異を、実に素直に受け入れて、少しも怪しもうとしなかった。彼は部下に命じて行列の進行をとどめ、自分は草むらの傍らに立って、見えざる声と対談した。都のうわさ、旧友の消息、袁侏が現在の地位、それに対する李徴の祝辞。青年時代に親しかった者どうしの、あの隔てのない語調で、それらが語られた後、袁侏は、李徴がどうして今の身となるに至ったかを尋ねた。草中の声は次のように語った。

 

問一 傍線部A〜Cのカタカナは漢字に直し、漢字は読みをひらがなで答えよ。

問二 傍線部①とあるが、それはなぜか。

問三 傍線部②の意味として、最も適切なものは次のうちどれか。
ア 思い出を語り合った
イ 久しく近況を話した
ウ 久しぶりの挨拶をした
エ 昔の出来事を振り返った

問四 傍線部③の意味として、最も適切なものは次のうちどれか。
ア 亡くなった人
イ 昔からの友人
ウ 尊敬する人物
エ 古い考えの人

問五 傍線部④と同意の内容を本文から六字で抜き出せ。

問六 本文の作品名と作者を漢字で答えよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【解答例】
問一 Aちょくめい Bひるがえ(して) C不思議
問二 親しい友である袁侏を食べてしまうところだったから。
問三 ウ
問四 イ
問五 あさましい姿
問六 山月記、中島敦

 

 

 

 

 

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