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『こころ』テスト問題 <下 先生と遺書 四八>

 

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【一】本文について、設問に答えよ。

勘定してみると奥さんがKに話をしてからもう二日余りになります。その間Kは私に対して少しも以前と異なった様子を見せなかったので、私は全く①それに気がつかずにいたのです。彼の超然とした態度はたとい外観だけにもせよ、敬服に値すべきだと私は考えました。彼と私を頭の中で並べてみると、彼のほうがはるかに立派に見えました。「おれは策略で勝っても人間としては負けたのだ。」という感じが私の胸に渦巻いて起こりました。私はそのときさぞKが軽蔑していることだろうと思って、一人で顔を赤らめました。しかし今さらKの前に出て、恥をかかせられるのは、②私の自尊心にとって大いな苦痛でした。
私が③進もうかよそうかと考えて、ともかくも明くる日まで待とうと決心したのは土曜の晩でした。ところがその晩に、Kは自殺して死んでしまったのです。私は今でもその光景を思い出すとぞっとします。いつも東枕で寝る私が、その晩に限って、偶然西枕に床を敷いたのも、何かの因縁かもしれません。私は枕元から吹き込む寒い風でふと目を覚ましたのです。見ると、いつも立て切ってあるKと私の部屋との仕切りの晧が、この間の晩と同じくらい開いています。けれどもこの間のように、Kの黒い姿はそこには立っていません。私は暗示を受けた人のように、床の上に肘をついて起き上がりながら、きっとKの部屋をのぞきました。ランプが暗くともっているのです。それで床も敷いてあるのです。しかし掛け布団ははね返されたように裾のほうに重なり合っているのです。そうしてK自身は向こう向きに突っ伏しているのです。
私はおいと言って声をかけました。しかしなんの答えもありません。おいどうかしたのかと私はまたKを呼びました。それでもKの身体はちっとも動きません。私はすぐ起き上がって、敷居際まで行きました。そこから彼の部屋の様子を、暗いランプの光で見回してみました。
そのとき私の受けた④第一の感じは、Kから突然恋の自白を聞かされたときのそれとほぼ同じでした。私の目は彼の部屋の中を一目見るやいなや、あたかもガラスで作った義眼のように、動く能力を失いました。私は棒立ちに立ちすくみました。それが疾風のごとく私を通過したあとで、私はまたああしまったと思いました。⑤もう取り返しがつかないという黒い光が、私の未来を貫いて、一瞬間に私の前に横たわる全生涯をものすごく照らしました。⑥そうして私はがたがた震え出したのです
それでも私はついに私を忘れることができませんでした。私はすぐ机の上に置いてある手紙に目をつけました。それは予期どおり私の名宛になっていました。私は夢中で封を切りました。しかし中には⑧私の予期したようなことはなんにも書いてありませんでした。私は私にとってどんなにつらい文句がその中に書き連ねてあるだろうと予期したのです。そうして、もしそれが奥さんやお嬢さんの目に触れたら、どんなに軽蔑されるかもしれないという恐怖があったのです。私はちょっと目を通しただけで、まず助かったと思いました。(もとより世間体の上だけで助かったのですが、その世間体がこの場合、私にとっては非常な重大事件に見えたのです。)
手紙の内容は簡単でした。そうしてむしろ⑨抽象的でした。自分は薄志弱行でとうてい行く先の望みがないから、自殺するというだけなのです。それから今まで私に世話になった礼が、ごくあっさりした文句でそのあとにつけ加えてありました。世話ついでに死後の片づけ方も頼みたいという言葉もありました。奥さんに迷惑をかけてすまんからよろしくわびをしてくれという句もありました。国元へは私から知らせてもらいたいという依頼もありました。必要なことはみんな一口ずつ書いてある中にお嬢さんの名前だけはどこにも見えません。私はしまいまで読んで、すぐKがわざと回避したのだということに気がつきました。しかし私の最も痛切に感じたのは、最後に墨の余りで書き添えたらしく見える、⑩もっと早く死ぬべきだのになぜ今まで生きていたのだろうという意味の文句でした。
私は震える手で、手紙を巻き収めて、再び封の中へ入れました。⑪私はわざとそれをみんなの目につくように、元のとおり机の上に置きました。そうして振り返って、晧にほとばしっている血潮を初めて見たのです。

 

 

 

問一 傍線部①「それ」の内容を、三十字以内で答えなさい。

問二 傍線部②とあるが、これと逆の心を端的に表現した一文を探して、はじめと終わりの五字ずつを書け。

問三 傍線部③とあるが、「進む」「よす」とは何についてのことか。説明せよ。

問四 傍線部④とあるが、この「感じ」はどのようなものであったのか。簡潔に説明せよ。

問五 傍線部⑤とあるが、「私」はどのようなことを感じたのか。説明した次の文に当てはまる適語を指定された字数で本文から抜き出せ。

[① 四字]という取り返しのつかない事態が、私の[② 二字]を暗いものにするということ。

問六 傍線部⑥とあるが、なぜ「私はがたがた震え出した」のか。説明しなさい。

問七 傍線部⑦とあるが、「私」の何を「忘れることができ」なかったのか。何にあたる語を本文から三字で抜き出せ。

問八 傍線部⑧について、どのようなことだと考えられるか。説明した次の文に当てはまる適語を指定に従って答えよ。

Kを[① 五字以内]ことを[② 三字] 言葉。

問九 傍線部⑨は、何について「抽象的」だというのか。十字以内で答えよ。

問十 傍線部⑩にはKのどのような思いがこめられているか。説明せよ。

問十一 傍線部⑪について、

(1)なぜ「私はわざとそれをみんなの目につくように」置いたのか。その理由を説明せよ。

(2)ここには「私」のどのような面が表れているのか。五字以内で答えよ。

問十二 手紙にはなぜ死を選んだとあるのか。五字以内で抜き出せ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【解答例】

問一 奥さんがKに「私」とお嬢さんの婚約の話をしていたこと。

問二 「おれは策…りました。

問三 Kにこれまでの事情を話して謝罪すること。

問四 状況が把握できないほど驚いてショックを受けた感じ。

問五 ①Kの自殺 ②生涯

問六 自分のこれからの生涯は、罪の意識にさいなまれつづけるであろうと直感されたから。

問七 世間体

問八 ①裏切った ②責める

問九 Kが自殺した理由

問十 道に外れて恋をしてしまった自分に対する反省と、そういう自己を否定しようとする思い。

問十一(1)Kの自殺の原因を自分に求められることを避けるため。

(2)エゴイズム(利己主義)

問十二 薄志弱行

 

 

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