【一】本文について、設問に答えよ。
花園の左大臣の家に、初めて参りたりける侍の、名簿の端書きに、「①能は歌詠み」と書きたりけり。
大臣、②秋の初めに、南殿に出でて、はたおりの鳴くを愛しておはしましけるに、暮れければ、「③下格子に、人参れ。」と仰せられけるに、「蔵人の五位違ひて、人も候はぬ。」と申して、この侍参りたるに、「ただ、さらば、なんぢ下ろせ。」と仰せ❶られければ、参りたるに、「なんぢは歌詠みな。」とありければ、かしこまりて、御格子下ろしさして候ふに、「このはたおりをば聞くや。一首④つかうまつれ。」と仰せられければ、「青柳の」と、初めの句を申し出だしたるを、候ひける女房たち、⑤折に合はずと思ひたりげにて、⑥笑ひ出だしたりければ、「ものを聞き果てずして⑦笑ふやうやある。」と仰せられて、「疾くつかうまつれ。」とありければ、
⑧青柳のみどりの糸を繰りおきて夏へて秋ははたおりぞ鳴く
と詠みたりければ、大臣、感じ給ひて、萩織り❷たる御直垂を、⑨押し出だして賜はせけり。
寛平の【 A 】に、「⑩初雁」を、友則、
⑪春霞かすみていにしかりがねは今ぞ鳴くなる秋霧の上に
と詠める、左方にてありけるに、五文字を詠みたりける時、⑫右方の人、声々に笑ひけり。さて次の句に、「かすみていに❸し」と言ひけるにこそ、音もせずなりにけれ。⑬同じことにや。
問一 次の語句の読みをひらがな(現代仮名遣い)で答えなさい。
①名簿 ②大臣 ③南殿 ④下格子 ⑤蔵人 ⑥直垂
問二 傍線部❶〜❸の助動詞の意味を漢字で答えなさい。
問三 傍線部①とあるが、どのような意味か。簡潔に答えよ。
問四 傍線部②は旧暦の何月の初めのことか。
問五 傍線部③について、具体的に述べた文の空欄を指定された字数で答えなさい。
- (A 二字 )を(B 三字 )こと。
問六 傍線部④とあるが、具体的に何をしろということか。
問七 傍線部⑤とあるが、どういうことか。簡潔に答えなさい。
問八 傍線部⑥とあるが、なぜか。主語を明らかにした上で説明せよ。
問九 傍線部⑦を現代語訳しなさい。
問十 傍線部⑧の歌について、
(1)「青柳」はどの季節の景物か答えなさい。
(2)この短歌で用いられている修辞法について答えなさい。
A「へ(て)」とは「綜(て)」と「( イ )」の二つの意味を含んだ( ロ )である。
※(イ)は「綜(て)」と意味の区別ができるよう漢字で答え、(ロ)は適当な修辞法を答えなさい。
B「糸」「繰り」「へて」は( ハ )の( ニ )である。
※(ハ)は短歌の中から抜き出して、(ニ)は修辞法を答えなさい。
問十一 傍線部⑨について、
(1)どこから「押し出だし」たのか。適切なものを選び、記号で答えよ。
ア 格子の下から イ 柱の陰から ウ 御簾の下から エ 押し入れから
(2)「賜はせけり」を現代語訳しなさい。
(3)なぜこのような行動をとったのか。理由を答えなさい。
(4)直接的な理由を本文から八字で抜き出しなさい。
問十二【A】は左右に分かれて、歌の優劣を競う催しである。適切な漢字二字で答えなさい。
問十三 傍線部⑩について、
(1)「初雁」とはいつの季節の景物か。
(2)「初雁」と同じ生き物を表す語を本文から抜き出しなさい。
問十四 傍線部⑪について、
(1)句切れを答えなさい。
(2)係り助詞を抜き出しなさい。また、文法上の意味として最も適当なものを、次から選べ。
ア 並列 イ 疑問 ウ 強意 エ 反語
問十五 傍線部⑫とあるが、それはなぜか。答えなさい。
問十六 傍線部⑬について、
(1)何と何が「同じ」なのか。具体的に答えなさい。
(2)「にや」の後ろには結びの語が省略されている。省略されている語を三字で答えなさい。
問十七 この話の出典と作者を答えなさい。
【解答例】
問一 ①みょうぶ ②おとど ③なでん ④げこうし ⑤くろうど ⑥ひたたれ
問二 ❶尊敬 ❷存続 ❸過去
問三 歌を詠む才能があるということ。
問四 七月
問五 A格子 B下ろす
問六 和歌を詠めということ。
問七 季節に合わないということ。
問八 侍が詠んだ歌の詠み出しが季節外れで、左大臣の求めた歌題と違いすぎたから。
問九 笑うということがあるか。いや、あってはならない。
問十(1)春
(2)(イ)経て(ロ)掛詞(ハ)はたおり(ニ)縁語
問十一(1)ウ
(2)お与えになった。
(3)大臣が与えた歌題をすぐに詠み、いくつもの修辞法がかかりあった侍の歌に感動したから。
(4)大臣、感じ給ひて
問十二 歌合
問十三(1)秋(2)かりがね
問十四(1)四句切れ(2)ぞ ウ
問十五 秋の景物である「初雁」が題なのに、「春霞」と季節はずれの歌材を詠み出したから。
問十六(1)季節外れのものから詠み出し、歌題の季節に至るという詠み手の巧みさで、聞き手の意表をついた点。
(2)あらむ
問十七(出典)古今著聞集 (作者)橘成季
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2020.6.19にサイト「ことのは」を開設、高校国語(現代文、古文、漢文)のテスト問題やプリントを作成、まれに中学国語の教材も扱っています。リクエストがあればコメントかTwitterのDMまで!!