「少年の日の思い出」テスト問題 《後半》




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「少年の日の思い出」テスト問題 《前半》

 

【二】本文について、設問に答えよ。

せめて例のチョウを見たいと、ぼくは中に入った。そしてすぐに、エーミールが収集をしまっている二つの大きな箱を手に取った。どちらの箱にも見つからなかったが、やがて、そのチョウはまだ展翅板に載っているかもしれないと思いついた。はたしてそこにあった。とび色のビロードの羽を細長い紙きれに張り伸ばされて、ヤママユガは展翅板に留められていた。ぼくはその上にかがんで、毛の生えた赤茶色の触角や、優雅で、果てしなくビミョウな色をした羽の縁や、下羽の内側の縁にある細い羊毛のような毛などを、残らず間近から眺めた。あいにく、あの有名な斑点だけは見られなかった。細長い紙きれの下になっていたのだ。
胸をどきどきさせながら、ぼくは紙きれを取りのけたい①誘惑に負けて、針を抜いた。すると、四つの大きな不思議な斑点が、挿絵のよりはずっと美しく、ずっとすばらしく、ぼくを見つめた。それを見ると、この宝を手に入れたいという逆らいがたい欲望を感じて、ぼくは生まれて初めて盗みを犯した。ぼくはピンをそっと引っぱった。チョウはもう乾いていたので、形は崩れなかった。ぼくはそれをてのひらに載せて、エーミールの部屋から持ち出した。その時、さしずめぼくは、大きな満足感のほか何も感じていなかった。
チョウを右手に隠して、ぼくは階段を下りた。その時だ。下の方から誰かぼくの方に上がってくるのが聞こえた。ぼくは突然、自分は盗みをした、下劣なやつだということを悟った。同時に、見つかりはしないかという恐ろしい不安に襲われて、ぼくは本能的に、獲物を隠していた手を、上着のポケットに突っ込んだ。ゆっくりとぼくは歩き続けたが、大それた恥ずべきことをしたという、冷たい気持ちに震えていた。上がってきたお手伝いさんと、びくびくしながらすれ違ってから、ぼくは胸をどきどきさせ、額に汗をかき、落ち着きを失い、自分自身におびえながら、家の入り口に立ち止まった。
すぐにぼくは、このチョウを持っていることはできない、持っていてはならない、もとに返して、できるならなにごともなかったようにしておかねばならない、と悟った。そこで、人に出くわして見つかりはしないか、ということを極度に恐れながらも、急いで引き返し、階段を駆け上がり、一分の後にはまたエーミールの部屋の中に立っていた。ぼくはポケットから手を出し、チョウを机の上に置いた。それをよく見ないうちに、ぼくはもうどんな②不幸が起こったかということを知った。そして泣かんばかりだった。ヤママユガは潰れてしまったのだ。前羽が一つと触角が一本なくなっていた。ちぎれた羽を用心深くポケットから引き出そうとすると、羽はばらばらになっていて、繕うことなんか、もう思いもよらなかった。
盗みをしたという気持ちより、自分が潰してしまった美しい珍しいチョウを見ているほうが、ぼくの心を苦しめた。(ア)ビミョウなとび色がかった羽の粉が、自分の指にくっついているのを、ぼくは見た。また、ばらばらになった羽がそこに転がっているのを見た。③それをすっかりもとどおりにすることができたら、ぼくはどんな持ち物でも楽しみでも、喜んで投げ出したろう。
悲しい気持ちでぼくは家に帰り、夕方までうちの小さい庭の中に腰かけていたが、ついに一切を母にうち明ける勇気を起こした。母は驚き悲しんだが、すでにこの告白が、どんな罰を忍ぶことより、ぼくにとってつらいことだったということを感じたらしかった。
「おまえは、エーミールのところに行かねばなりません。」と母はきっぱりと言った。「そして、自分でそう言わなくてはなりません。それよりほかに、どうしようもありません。おまえの持っている物のうちから、どれかを埋め合わせにより抜いてもらうように、申し出るのです。そして許してもらうように頼まねばなりません。」
あの【   】でなくて、他の友達だったら、すぐにそうする気になれただろう。彼がぼくの言うことをわかってくれないし、おそらく全然信じようともしないだろうということを、ぼくは前もって、はっきり感じていた。かれこれ夜になってしまったが、
ぼくは出かける気になれなかった。母はぼくが中庭にいるのを見つけて、「今日のうちでなければなりません。さあ、行きなさい!」と小声で言った。それでぼくは出かけていき、エーミールは、と尋ねた。彼は出てきて、すぐに、誰かがヤママユガをだいなしにしてしまった。悪いやつがやったのか、あるいはネコがやったのかわからない、と語った。ぼくはそのチョウを見せてくれと頼んだ。二人は上に上がっていった。彼はろうそくをつけた。ぼくはだいなしになったチョウが展翅板の上に載っているのを見た。エーミールがそれを(イ)繕うために努力した跡が認められた。壊れた羽は丹念に広げられ、ぬれた吸い取り紙の上に置かれてあった。しかしそれは直すよしもなかった。触角もやはりなくなっていた。そこで、それはぼくがやったのだと言い、詳しく話し、説明しようと試みた。
すると、エーミールは激したり、ぼくをどなりつけたりなどはしないで、低く、ちえっと舌を鳴らし、しばらくじっとぼくを見つめていたが、それから「⑤そうか、そうか、つまりきみはそんなやつなんだな。」と言った。
ぼくは彼に、ぼくのおもちゃをみんなやると言った。それでも彼は冷淡にかまえ、依然ぼくをただ軽蔑的に見つめていたので、ぼくは自分のチョウの収集を全部やると言った。しかし彼は、「けっこうだよ。ぼくはきみの集めたやつはもう知っている。そのうえ、今日また、きみがチョウをどんなに取り扱っているか、ということを見ることができたさ。」と言った。
その瞬間、ぼくはすんでのところであいつの喉笛に飛びかかるところだった。もうどうにもしようがなかった。ぼくは悪漢だということに決まってしまい、エーミールはまるで世界のおきてを代表でもするかのように、冷然と、正義をたてに、(ウ)侮るように、ぼくの前に立っていた。彼は罵りさえしなかった。ただぼくを眺めて、軽蔑していた。
その時初めてぼくは、一度起きたことは、もう償いのできないものだということを悟った。ぼくは立ち去った。母が根ほり葉ほりきこうとしないで、ぼくにキスだけして、かまわずにおいてくれたことをうれしく思った。ぼくは、床にお入り、と言われた。ぼくにとってはもう遅い時刻だった。だが、その前にぼくは、そっと食堂に行って、大きなとび色の厚紙の箱を取ってき、それを寝台の上に載せ、闇の中で開いた。⑦そしてチョウチョを一つ一つ取り出し、指でこなごなに押し潰してしまった

 

 

問一 傍線部(ア)〜(ウ)のカタカナは漢字に、漢字は読みをひらがなで答えよ。

問二 次の一文はどこに入るか。入る直後の五字を抜き出せ。
◆その瞬間にぼくの良心は目覚めた。

問三 傍線部①とあるが、具体的にどのような思いによって「誘惑に負け」たのか。それを説明した次の文の空欄に入る言葉を指定に従って入れよ。
◆ヤママユガの( 本文から二字 )を見たいという思い。

問四 傍線部②とあるが、具体的にどのようなことが「不幸」だというのか。最も適切なものを選び、記号で答えよ。
 エーミールに迷惑をかけてしまったこと。
 エーミールの部屋に入ってしまったこと。
 ヤママユガを盗んでしまったこと。
 ヤママユガが潰れてしまったこと。

問五 傍線部③が指しているものを、本文から九字で抜き出せ。

問六 【   】に入るべき言葉として、最も適切なものは次のうちどれか。
 大の大人
 道徳心のない人間
 模範少年
 こっぴどい評論家

問七 傍線部④とあるが、その理由にあたる一文を本文から探して、はじめと終わりの三字を書け。

問八 傍線部⑤とあるが、この発言に表れたエーミールの心理として、最も適切なものは次のうちどれか。
 激怒   軽蔑   悲嘆   侮蔑

問九 傍線部⑥とあるが、ここで込められた心理としては関係のないものは次のうちどれか。
 憎悪   不快   屈辱   敵対

問十 傍線部⑦とあるが、宝物のチョウを「指でこなごなに押し潰してしまった」理由として、最も適切なものは次のうちどれか。
 自分の集めたチョウを見るたびに、ヤママユガを潰してしまったことが鮮明に思い出されるとともに、エーミールという自分にとって嫌なやつまで思い出すことになってしまうから。
 エーミールのヤママユガを盗んでしまったことは、悪いことだと思っていないが、自分がヤママユガを潰してしまったことに罪悪感を感じており、その罪を晴らすためには自分のチョウを潰すしかないから。
 自分の犯した行為は決して取り返しがつかないことだと認識し、宝物のチョウをこなごなに潰すことによって、自分にも罰を与えるとともに、チョウの収集は今後やめようとしているから。
 エーミールが必死になって取ったヤママユガを盗んだうえに、潰してしまったことは申し訳ないが、謝罪時にかけられた言葉が酷く、自分も宝物であるチョウを潰して全く同じ言葉を返そうと思っているから。

 

 




 

 

 

 

 

 

 

 

【解答例】
問一(ア)微妙 (イ)つくろう (ウ)あなどる
問二 ぼくは突然
問三 斑点
問四 
問五 美しい珍しいチョウ
問六 
問七 彼がぼ…いた。
問八 
問九 
問十 

 

 

 

 

 

 

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